法政大学大学院 「食と農」研究所 (研究は終了しています)

研究員等の職は、設立当時のもの

研究代表者 社会学部教授 石坂 悦男
主たる研究分野 社会学、農業政策・行政、農業経済、農芸化学、環境論、医学
研究概要  21世紀のサステイナブルな社会構築をめざすとき、人間の生存を保障するための「食と農」に関わる持続可能な社会システムの構築は不可欠である。
いま、世界には10億人が飢餓に直面しており、それが地域紛争の要因にもなっている。地球温暖化による気候変動などの自然環境の破壊やグローバル化のも とでの市場競争の激化、主要穀物のバイオ燃料への需要などによって、「食と農」をめぐる自然環境・社会環境は著しく悪化しており、その結果、人々の生命の基礎である「食」の安全と「食」を安定的に供給する「農」の根幹が崩壊の危機に直面している。サステイナブル社会の構築にとって、安全な「食」とその安定的供給を保障するための社会システムの構築こそ、もっとも喫緊な課題の一つである所以である。
日本の場合も事態は深刻である。「食と農」を支える社会的仕組みが崩壊の危機に瀕している。これまで日本の「食」を支えてきたシステムが既に限界に達して久しい。日本の農業就業人口は昨年300万人を割り299万人に落ち込んだ。ピーク時の1960年には1454万人であったので、実に8割の減少である。しかもその半数近くが70歳以上である。新規就業者数は2007年で約7万3000人でしかなく、引退する高齢者の穴を埋めるには到底足りない。耕地面積でみても、1961年の609万㌶から、2008年には24%減の463万㌶になった。放棄農地が増え、2005年時点の耕作放棄地面積は、埼玉県の 面積を上回る39万㌶に及んでいる。コメの減反政策はこうした傾向を著しく促進した。減反により4割近くの水田が失われた(作付面積:1960年、312 万㌶、2000年176万㌶)。
このような日本の農業の崩壊は自給率の低下をもたらした。日本の食糧自給率(摂取カロリー換算で)39%(小麦13%、大豆37%、油脂類3%、畜産物 17%、コメも100%を切っている)で、先進国の中で最低である(フランス・130%、アメリカ・119%、ドイツ・91%、イギリス・74%;)。その結果、日本の「食」は大幅に輸入に依存することになった。だが、「食」をめぐるWTO等に支えられた国際自由貿易は安定的競争を保障しない。「食」の過 度な輸入への依存は、安価な食料を求める消費者の指向と行動に沿うものとはいえ、BSEや中国餃子事件に現れたように、基本的な「食」の安全さえ各自がコ ントロールできない事態をまねいているだけでなく、国内農業と農家と農民を圧迫し疲弊させている。「食」の安全保障・安心確保のためにも、「食」の安定的 供給を支えるためにも、国内農業の再生と農家の営農保障が見直されなければならない。現に農家経済の実情を見ると(農業経営動向調査によると)、農家世帯が窮乏化している実態が明らかである。言い換えれば農家が農業を続けることができない現実がある。
グローバリゼーションの下で、世界市場で勝ち抜こうとすれば、効率を優先させるために自然の力は農作物の生産過程から排除され、土地に代わって化学肥料と農薬が重視され、さらに穀物事態に殺虫性をもたせた遺伝子組み換え作物が安全性の証明もないままにつくられ市場に出回る。このことは農業から自然を排除 することであり、農業がもつ人と自然の豊かな関係性が消滅することを意味する。
また、このような仕組みで作り出された作物に安全や安心を求めることはできない。
自然こそが農業の生産力の根源である。「食」の供給源である農業は、それが本来もっている地域性や風土性に支えられており、そのような農業が作物の生産 だけでなく、水源の涵養や土砂崩れ防止など地球自然環境保全、地域社会の存立にも役立っているのである。すべての地球環境問題が食料危機につながってい る。自然を破壊して「農」は存在しない。
政府や経済界は(そして国民の多くも?)、“国際競争に勝てない日本の農業は消滅しても仕方がない”と考えているかもしれない。しかし、日本の「食と 農」がこのような危機的状態に陥ったのには、減反政策や食管法などに象徴されるような政府の農業政策・農業行政の失敗が大きく与っていることを看過しえな い。たとえば、コメをつくらせないために補償金を出す一方で、汚染された輸入米を売る政府のやり方は間違っている。1994年からの米輸入の関税化を政府 決定したために、市場メカニズムのなかで強制的な減反政策そのものが辻褄の合わないものになってきている。国内の食料自給率を引き上げるためにも減反政策 をやめて、コメを増産すべきだ。現に各地の農家から「今後の食料供給という観点から考えても、つくれる田圃を無理やりつぶせというのは食料安全保障や自給率の大切さを国内外に向けて出張する当局の姿勢に矛盾している」との声が上がっている。島根県旧柿木村や福島県西会津町のように、農業基本法の方針とはたもとを分かち多品目・有機農業を推進し、農業(家)の経済的自立と町民の健康促進とを両立させている例がある。
すでに農政が農家から見放されているのである。減反政策の廃止や農家所得・農産物価格保障の在り方等の見直しなど農政の抜本的な転換が急務である。その際、自給率を高めること、「食」の安全と「農」の持続的発展の両立が農政の課題の中心に位置づけられねばならない。
「食と農」の問題はすでに述べたように、自然環境問題(土壌汚染や農薬問題等)、農業政策や農業経営に関わる問題、多国間交渉、地域社会の共同性から「食」の安全にかかわる問題等々、狭い個別専門分野の研究者だけでは取り組めない広がりと複雑さを有している。本研究所は、理系文系の広範な研究分野の研究員による学際的な共同作業(多面的なアプローチ)によって、「食と農」のサステイナブルな社会構築という課題に取り組むことを目的とする。
研究員
岡野内 正 社会学部教授
越部 清美 社会学部准教授
特任研究員
高橋 悟 東京農業大学地球環境科学部教授
島崎 治道 (私)付加価値農業経営研究所所長
法政大学社会学部兼任講師
八並 一寿 玉川大学農学部准教授
小野寺 敏 昭和薬科大学病態科学研究室准教授
北村 龍行 (財)東京市政調査会『都市問題』編集長
二瓶 徹 法政大学大学院政策科学研究科博士後期課程
(財)食品産業センター普及・食育推進部 主事
その他研究参加者
南木 和之 埼玉農業会議事務局次長
吉井 美和子 法政大学大学院博士後期課程
設置期間 2009年7月28日~2013年3月31日
設置場所 社会学部石坂研究室